翻訳の練習問題16(解答)
長い間をあけてしまいました。問題は何でしたっけ? サマセット・モームの『The fall of Edward Barnard』からの出題でしたね。
'All right,' she said, with a quick smile. 'Arnold ain't back yet.'
前回の記事には「情報の順序に関する問題」と書いてあるけど、どうしてこれが情報の順序に関する問題なのか、忘れてしまいました。ポイントは他にあります。
そのポイントは、「簡単な英単語でも、疑問に思ったら辞書をひく」です。この問題で私が重要だと思う単語は「quick」です。「smile」を形容する「quick」はどのような意味なんだろうって疑問に思いませんか? まさか「すばやい」ではないですよね。そう疑問に思ったら、迷わず辞書でしらべましょう。
こういう意味だと思うんだけど、その意味が辞書に載っていないという場合は、ネットでとことんまで調べましょう。
私は、副詞的な「軽く」という意味ではないかと思ったんですけど、辞書にはその意味が載っていません。そこでネットで調べてみたら、ありました。
moving quickly and lightly
この定義がどこに載っていたかは教えません。練習だと思って、自分でネットで調べてみてください。
ここまで調べてから訳してみましょう。
「分かったわ」彼女はそう言って軽く微笑んだ。「アーノルドはまだ帰ってないのよ」
行方昭夫さんは次のように訳しています。
「分かったわ。アーノルドはまだ帰ってないのよ」彼女はすぐに微笑を浮かべて言った。
「quick」の解釈が私とは違います。行方さんは東大名誉教授ですから、僕の解釈がずれている可能性の方が大です。一抹の不安が残りますが、自分の解釈に自信はあります。日本語の「軽い」には時間的に速いっていう意味がありませんか? だって、ソフトウェアの動きが速いことを「軽い」って言うじゃないですか。
ここで今回の練習問題を終わりにしようかと思ったんですけど、前回の記事に書いてあったポイント「情報の順序に関する問題」を思い出しました。
行方さんの翻訳のように、前置詞の「with」以下を訳してから前に戻っても、何ら問題はありません。でも、「with」の前にカンマがあるでしょ? サマセット・モームは、何等かの意図があってカンマを打ったんだと思うんです。だから、私は「with」の前までを訳してから「with」以下を訳しました。
このような短文だったら、「情報の順序」なんてたいした問題ではないんですけど、複雑な長文になると、これが大きな意味を持ってくるんですよ。