『バブルノタシナミ』阿川佐和子

2017年7月に発行された本だから、今まで読んできた阿川佐和子さんのエッセイのなかでは最も新しいものかな。

ちょっと調べてみたら、これまで僕が読んできた阿川佐和子さんのエッセイは、すべて10年ほど前に出版されたものばかりでした。

その10年ほど前のエッセイと比べると、このエッセイ集は落ち着いています。自分をさらけ出して、赤裸々に爆笑を狙っているという印象は受けませんでした。10年も年齢を重ねた上に結婚もして、落ち着いたのでしょうか。

あまり比較してはいけないけど、親友の檀ふみさんと比べると、品格は劣るかも。いえ、阿川佐和子さんが下品だとは言っていませんよ。他の本を読んでみると、阿川佐和子さんも、檀ふみさんと同じで、かなり恵まれた家庭で育って、いい教育を受けたことがうかがえますから、下品になるはずがありませんし、上品であることは間違いありません。ただ、檀ふみさんの方が上品だと言いたいだけです。

人のことをとやかく言うお前はどうなんだ、とお叱りを受けて当然です。すみません。自分のことを棚に上げていました。しかも、またもや本の内容に触れていませんでした。

『ひとりを愛し続ける本』遠藤周作

さすがは遠藤周作さんです。最初から引き込まれました。

人を見る目が鋭すぎます。しかも、遠藤周作さんのおっしゃることは、どれもこれもごもっとも。思わず頷いてしまいます。

初版が1986年ですから、30年以上も前の本です。こんなに古い本なのに、遠藤周作さんの意見に頷けるということは、人間って本質的には進歩しないものなのかなと思ってしまいます。

この本を読むと、遠藤周作さんは物静かに人をじっと観察している人なんだろうな、と思ってしまいますが、軽井沢の別荘では、一時期、どんちゃん騒ぎをしていて遠藤パーティと銘打たれていたそうです。

『まだふみもみず』檀ふみ

檀ふみさんの親友である阿川佐和子さんによると、檀ふみさんは何でも学術的に追及する人なのだそうです。檀ふみさんご自身は、学生の頃はそんなに勉強しなかったけど、社会に出てから勉強するようになった、と自分のことを言っています。

いつ勉強したかに関係なく、きちんと勉強しているから、NHKの連想ゲームで好成績を上げられたし、この本のように綺麗な文章が書けるのですよね。檀ふみさんがきれいなのは、内面が美しいからなのだろうな、と思います。

僕も勉強しようっと。でも、この年齢からでは遅すぎるかな。

何だか、本の紹介になっていませんね。本の内容について触れてませんもんね。それでもまあ、読んでみてください。檀ふみさんの教養の深さと綺麗な文章に感動しますよ。

『オドオドの頃を過ぎても』阿川佐和子

阿川佐和子さんは、子供の頃あまり読書をしなかったと言っていますが、なかなかどうして、ご自身では気付かぬうちに、良書をけっこう読んでいたことをこの本で白状しているではないですか。優秀なお兄様に比べたら、読んだ本が少なかったということに過ぎないですね。世間一般に比べたら、かなり読んでいますよ。

阿川佐和子さんは、横暴なお父様に虐げられていたと言っていますが、なかなかどうして、ご自身では気付かぬうちに、お父様から守っていただいていたことをこの本で白状しているではないですか。お父様を介して知り合った人たちは、そうそうたるメンバーですもんね。とても良い環境を提供してくれた、いいお父様ではないですか。

いい環境に生まれ育った阿川佐和子さんのことがうらやましいです。いえ、いい環境に生まれ育ったのだから、阿川佐和子さんが今日のように活躍しているのは当然だなんて言っているのではありません。同じ環境に生まれ育っても、僕のように怠け者では成功できなかったでしょうから。

これまでの人生でいちばん笑えたこと

犬の散歩をしているときのこと、ある家の庭で、上は小学校1年生くらい、下は幼稚園児と思われる姉妹が遊んでいました。

「ねえ、ねえ、お姉ちゃん、浣腸しよう!」

「いいよ」

妹は両手を組んで人差し指を伸ばし、姉の背後にしゃがみました。「カンチョー!」二人の笑い声が響きます。

「じゃあ、今度は私の番ね、カンチョー!」

これで終わりではありませんでした。

「ねえ、お姉ちゃん、今度はお尻を開いて本当に浣腸しよう!」

「いいよ」

姉は相撲取りがしこを踏むような格好をしました。

「カンチョー!」

さっきよりも大きな笑い声が響きます。次が姉の番になったことは、言うまでもありません。

これが行われている間、その家の前に立っている電柱の根本の臭いをかぎ続けていたうちの犬はえらいと思いました。

『太ったんでないのッ!?』阿川佐和子、檀ふみ

阿川佐和子さんは、恵まれた環境でお育ちになったように見受けられますが、庶民的な人なんですね。少し高い買い物をした後で必ず後悔して罪悪感に苛まれたり、モノを大切にしすぎるほど大切にしたり。

檀ふみさんは、筋金入りのお姫様なんですね。贅沢が大好き。それも、形に残らない贅沢が好きという、本格的な贅沢者。

阿川さんを好む人が多いかもしれないけど、僕は檀ふみさんが好きです。美人で知的で上品で、すこし嫌味っぽいところが好きです。

『ああ言えばこう言う』や『ああ言えばこう食う』と同じ形のエッセイで、二人の漫才のような掛け合いが楽しい本です。

『50代からしたくなるコト、なくていいモノ』岸本葉子

たしか、日曜日に早起きしてNHKをつけると、岸本葉子さんが俳句の番組の司会を務めていますよね。ゆっくり、のんびりとした語り口は、のろまな私には好印象です。早口でまくし立てる、私の妻のような人には、ややもするとモタモタした口調にイライラさせられるかもしれませんが、私は好きです。

ゆったりした文章で、基本的に楽しいのですが、どこか暗さが付きまといます。どうしてなんだろう、と不思議に思っていたら、最後まで読んで納得しました。40歳で癌を経験しているんですね。それも虫垂癌という、見つけにくい癌で、手術後に生き残れる確率は3割だったそうです。何もかもさらけ出して爆笑を誘うエッセイストとは一線を画すようになって当然です。

私ももうすぐ50歳なので、この先どのように生きて行くべきか、老いとどう向き合うべきなのか、そういったことを学ばせてもらうかなと思ったら、そういう内容ではありませんでした。でも、さすがは定評のあるエッセイストですね。初めて読みましたが、どんどん引き込まれて、一気に読んでしまいました。